講演の記録
第21回かながわ乳がん市民フォーラム 『思ったより大変?ホルモン療法』
Contents |
・ホルモン療法にも副作用ってあるんだ |
・ホットフラッシュにもタイプがある |
・ホルモン剤の服用あれこれ |
・ホルモン療法と東洋医学 |
・乳がん治療と気持ちの共有 |
第21回かながわ乳がん市民フォーラム(以下フォーラム)を、2022年12月 横浜鶴ヶ峰病院付属予防クリニックをお借りして
「思ったより大変?ホルモン療法」と題して座談会を開催いたしました。
ホルモン療法による副作用を感じている方は「治療の副作用だから」と思って我慢してしまいがちですが、
体験者のお話、東洋医学の視点からみた女性のからだの仕組みを知ることで、副作用に対する考え方が変わるかもしれません。
長いホルモン療法との付き合い方がすこし良くなるきっかけになっていただければ幸いです。是非ご覧ください。
開催日 2022年12月8日
会 場 横浜鶴ヶ峰病院付属予防クリニック
参加者 吉田達也(済生会横浜市南部病院 乳腺センター長)/世話人
百村幸恵(乳がん体験者)
板倉英俊(神奈川県立がんセンター 東洋医学科部長)
原田知彦(がん専門薬剤師・がん指導薬剤師)/記録
谷澤景子(乳がん体験者/BEC13期生)/進行役
ホルモン療法にも副作用ってあるんだ
谷澤:かながわ乳がん市民フォーラムも21回目ということで、今回は『思ったより大変?ホルモン療法』と題して、ホルモン療法の副作用の話を中心に座談会を開催します。
吉田:済生会横浜市南部病院の吉田です。本日はお集まりいただきありがとうございます。
私はこの会には18回から参加させてもらっています。以前は桜木町のホールを借りて、毎回300人くらいお集まりいただき開催していたのですが、新型コロナウイルスの影響で集合形態での開催が困難となり、来年は集まろうね、来年はって言いながら3年目の今回もオンラインでの開催となりました。
でも、こぢんまりとしながらも対話の中で出てくるものを見ていただいて、患者さんが普段感じていることが「自分だけじゃないんだ」って、同じような経験をしている人がいるんだっていうのを知って貰えたらいいなと思いながら座談会の記事を載せています。
自分自身も、最近は外来も忙しくてゆっくり話することもできないことが多いですが、患者さんとの対話の中で生まれるナラティブなところに惹かれるので、この座談会も楽しみにして来ました。
板倉:はじめまして、神奈川県立がんセンター東洋医学科の板倉です。 僕は元々、循環器内科で不整脈を専門にやっていました。 板倉先生 先ほど吉田先生がおっしゃっていたようなナラティブの部分、エビデンス・ベースド・メディスンの対語になるのがナラティブ・ベースド・メディスン(Narrative-Based
Medicine)と言って、対話をし合うことで築き上げていく医学、主観的な医学の大切さを感じるようになって、総合診療科および東洋医学をやっている科に移りました。
谷澤:本日の中心者、乳がん体験者の百村さんです。よろしくお願いします。 百村: 百村さん ですけど、さすがに同じところにずっとしこりがあるのが怖くなって、4月にクリニックを受診して5月に乳がんの診断を受けました。
カテーテル室にこもって心臓の中の電気信号とひたすらにらめっこしながら、不整脈の原因をどうやって止めればいいかっていうのをやったり、ペースメーカーの埋め込みなどをやっていました。
ずっとそういうのをやっていると、人間の体を機械として見るということや、循環器というのはエビデンス・ベースド・メディスン(Evidence-Based Medicine)といって、データがはっきりある分野なので、やるべき部分が決まってるから迷いはないんだけれども、これって本当に自分のやりたい医療だったんだろうか?って思う事がありました。
東洋医学のほうがより専門性が活きる、勉強してキャリアアップができるというので東洋医学をはじめて、今も続けています。
私は2021年の年明けくらいに胸のしこりに気付きました。 ただすぐに受診するのを戸惑ったというか、今ある生活が一変するのではないかという不安や、今の責任ある仕事を投げ出したくないな、これから忙しくなるし、という思いもあって受診を控えていました。
谷澤:治療の経過はどのようなものですか?
百村:手術、抗がん剤、放射線が終わって、今はホルモン療法を受けているところです。
谷澤:ありがとうございます。本日は百村さんのお話をお聞きしながら、板倉先生、吉田先生にそれぞれ専門の立場からできることを教えていただきたいと思います。
百村さんはお仕事を続けながら治療を受けられているということで、両立するために色々と悩んだり御苦労もされたりしたのではないかと思いますが、どなたか相談できる方はいらっしゃいましたか?
百村:一番相談したのは、がん相談支援センターの看護師さんです。話しやすくて、その方に通院するたびにお話をさせていただきました。
私はAYA世代で罹患したので、乳がんとわかった時にまず子どもが産めなくなる可能性が生じるというのが一番つらかったです。
助産師の仕事をしていて、幸せな現場にいて、いつかは自分も産めるかなと思っていたのをバタンと扉を閉じられたというか、治療で生理もなくなるしホルモン剤も10年と言われて、10年飲み終わったらもう50代だし・・・と、そこが一番つらかった。
それでがん支援センターの看護師さんに相談したら、妊孕性温存もできるという話を伺って、そういう施設にも話を聞きにいったのですが、やはり費用のことや薬のことなどもあって、なかなか踏み出せないままがん治療へ進みました。
主治医には治療のことは話せるのですが、気持ちの部分を話したいと思っていても、診察室の前に「今日は何人患者さんがいて混んでいるのでお待たせします」という張り紙がされていると、なるべく聞きたいことはコンパクトにまとめて自分の診察時間を短くしないとって考えてしまう。言いたいことをうまく短く伝えることに気を置いてしまって、主治医にはあまり気持ちの面が話せないので、支援センターの看護師さんに相談していました。
谷澤:お仕事の方は休職されるにあたって、すんなりご自分のがんを公表できましたか?
百村:職場には3〜40人程のスタッフがいるのですが、コロナ禍で全体ミーティングがなくなってしまい、わざわざ一人一人に、がんになったと話すことはその時はきつくて、、直接関わるスタッフと上司にはお伝えしました。
手術して病理検査を見てみないと術後治療がどういったものになるかわからなかったということもあります。術前の話では、抗がん剤はしなくていいかも?ということだったので、手術と放射線が終わったら3か月くらいで復帰できるかなと計画を立てていました。
それと、後輩など年下の人たちに罹患したことを話すと「私もがんになるのではないか」と不安を与えてしまうのではないかと思い、年上の方には話せたのですが、後輩には「ちょっと体調を崩してお休みをいただきます」とだけ伝え、詳しくは話せなかったですね。
谷澤:がんを伝えて職場の環境は変わりましたか?
百村:そうですね、すみやかに私の引き受けている仕事を他の方に引継ぎしていただきました。委ねるところは委ねてお休みをいただき手術日を迎えました。
谷澤:現在はホルモン療法を受けてる最中でしたよね?
百村:はい。放射線が終わる少し前からホルモン剤(タモキシフェン)を飲みはじめて、ちょうど一年になります。
最初はタモキシフェン内服+リュープロレリン注射をしていました。当初は痛くも痒くもなくて2月から仕事に復帰する算段にしたのですが、飲み始めて3か月くらいから痛みが強く出てきてしまいました。
特に手首や足首の関節痛が強くなってしまい、酷いと起き上がれないときもありました。
最初はタモキシフェンの影響だとわからなくて、次第に気持もふさぎこむようになって、痛みから逃れたい一心でよからぬ事を考えてしまったりするようになり、さすがにヤバいと思い主治医に相談しました。
そうしたら「タモキシフェンの副作用」と言われました。
副作用と言われても、つらくて生きづらいので薬の量を減らせないかと相談したら、「タモキシフェンを飲まないリスクの方がこわいから、一旦リュープロレリンをやめてみよう」ということになり、リュープロレリンをやめて、その後一度内服薬タモキシフェンのほうも休薬をしました。
休薬して数週間で、つらかった痛みも少し和らいで薬の副作用だったと分かると、不思議に逃げたいほどつらい気持ちは納まってきました。
そうすると今度は、再発率を下げる目的のホルモン療法だから、薬は飲んでおいたほうが良いのかなと思うようになって、リュープロレリンはやめましたがタモキシフェンだけはいまも継続して飲むことができています。
谷澤:吉田先生、ホルモン療法ではタモキシフェンとリュープロレリンは最初からセットで始めるものなんですか?
吉田:リュープロレリンは卵巣の働きを抑え、卵巣からのエストロゲン分泌を抑制します。これを卵巣機能抑制と呼んでいます。同等の働きを有する薬としてゴセレリンも使われています。
このリュープロレリンとタモキシフェンの併用と、タモキシフェン単独とどっちがいいのかを調べた臨床試験が行われています。
これを見ると、タモキシフェンと卵巣機能抑制を併用することで、再発リスクが約4/5に減少しました。特にホルモン陽性乳がんは治療開始5年以降の遅発性再発があるといわれているのですが、5年以降の再発で差が目立ちます。
でも、実際どれくらいの差があるの?となると、12年で約4%。タモキシフェンと卵巣機能抑制の併用で12年の無再発生存が76.1%で、タモキシフェン単独だと71.9%です。
この差を、4%「しか」ないと取るか、4%「も」あると取るかというのは患者さんの受け止め方次第のところはあると思うんです。
百村さんのおっしゃる通り、ホルモン剤の副作用っていうのはあって、続けることのご本人の負担を考えると、そこのところは天秤にかけて患者さんの今の状況で治療を考えていくっていうのが重要なんじゃないかなと僕は思っています。あくまでエビデンスって、医学的にはこうなっていますよって患者さんに提示するものではあるけど、決してそれがすべてではなくて、エビデンスという土台があって、じゃあどうする?っていうのが治療なのかなと思っています。
谷澤:百村さんは、タモキシフェンを何年服用する予定と言われましたか?
百村:私は5年から10年と言われました。
谷澤:吉田先生、これは晩期再発を抑えるために、ホルモン剤を5年から10年は出来る限り飲み続けて欲しいということなんですよね?
吉田:先ほどの試験は治療期間5年間の比較でしたが、タモキシフェン単独療法の場合治療期間5年と10年で比較した試験があります。これは5年間内服できた人に対してもう5年追加した(計10年服用)場合と、5年で服用をストップした場合の比較です。
5年内服していて、その間に再発していないということは、そのがん細胞が実際にホルモン療法に感受性があるということ。ホルモン感受性がある人に、さらに5年間追加したらメリットがあるのか?というデータです。
結果は、5年内服した場合と10年内服した場合とで、治療開始15年目での再発を3/4に減らすことができるというものでした。実際の再発率は5年内服で25.1%と10年で21.4%、3.7%の差です。ホルモン療法は長く内服するほど再発リスクは低下していきますが、その差が小さくなっていきますので、もしかしたらどこかでそれ以上内服しても再発リスクが低下しないタイミングがあるのかもしれないですね。
今のところタモキシフェンは10年内服までのデータは出ているが、それ以降のはまだありません。
百村:乳がん治療でタモキシフェンを使うようになったのはいつ頃からですか?
原田:タモキシフェンは1963年に開発されています。
吉田:再発乳がんに対して卵巣を摘出し体内のエストロゲン分泌を減少させることで腫瘍縮小が得られたという報告が100年ほど前にあるんです。
そして1960年代に抗エストロゲン剤としてのタモキシフェンが出てきたら、やはり治療成績が良かった。乳がんのホルモン療法って、がん薬物療法でいうところのターゲット治療としては古くからある治療なんですね。
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